疾患脂質代謝物ライブラリー構築提案
本研究では、ヒト疾患検体の脂質成分を測定することで、体内で起きている脂質代謝物情報を集め、疾患の理解や新しい治療法開発、異分野共同研究と若手研究者育成へ繋げたいと思います。ヒト疾患に関係したゲノム情報(遺伝子情報)はどんどん蓄積され有益に活用されています。しかし、遺伝子情報だけでは分からない代謝物情報も重要です。
私たちの体は、遺伝子情報を元にタンパク質を作り、それらが代謝物を調節(合成、分解)しています。代謝物の中でも脂質代謝物の解析は難しい分野です。また、病気に関してもそれぞれ専門の医師や研究者がいます。病気の専門家と脂質の専門家が協力して行う必要がある研究です。
今回、6つのナショナルセンターが連携して血液などの脂質代謝物を分析します。診療情報とも合わせてデータを解析し、脂質代謝物から病気の一因や、病気を知らせるバイオマーカーを探索します。また、一部マウスモデル実験の脂質分析も行い、分子メカニズム解明を進めます。将来的には、このような情報をデータベース化し、専門外を含む多くの研究者や医師が利用できるようにすることが重要だと考えています。今回は第一歩として、6種疾患脂質代謝物を分析します。多種分野が融合して成し遂げられる研究です。
今回の対象疾患は、糖尿病性末梢神経障害、フレイル・サルコペニア、急性骨髄性白血病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、小児肥満及び心不全です。
このような代謝物ライブラリー構築は別の機関でも試みられていますが、まだ完全なものはなく、まずはそれぞれがデータ蓄積を試みることが大切に思います。このJH研究では6つのナショナルセンターの連携力を活かして、この領域に貢献したいと思っています。また、この異分野連携から若手研究者(基礎、臨床)の育成も行い、研究全体の発展へも寄与したいと思います。
研究のイメージ図
期待される効果
対象とする疾患を専門とする医師や研究者と、脂質専門の研究者が連携することで、新たな発見を期待できます。病気の理解に加えて、治療方法や薬の開発へ貢献できる情報が得られるかもしれません。また、一部の脂質代謝物は食事の影響を受けます。ある脂質分子の増減によって疾患を誘発、悪化、改善させることがわかった場合には、食事で治療とまでは難しいですが、普段の食生活での心がけに活かせるかもしれません。
主任研究者
進藤英雄(国立国際医療研究センター、脂質生命科学研究部、テニュアトラック部長)
私たちは普段脂質研究を行っています。体では多種ある脂質分子のバランスの変動で生体機能が変化します。しかし、脂質のみを研究していても生体機能改善へ活かすことはできません。その領域の専門家との共同研究が重要です。また、脂質代謝物は豊富なゲノム情報と統合的に解析することで、より活かされます。取得する脂質代謝物データを蓄積し、専門外の研究者も閲覧することで想定外の発見や共同研究が期待できます。
代謝物データベース構築は簡単ではありません。しかし、将来的に整備されれば科学の発展と健康に非常に有益だと考えています。また、このような研究の拡大は、コロナのような新興感染症発生時に迅速に代謝物測定を行える体制維持にも良いと考えています。
分担研究者
【国立国際医療研究センター】
●糖尿病情報センター
坊内良太郎
【国立精神・神経医療研究センター】
●遺伝子疾患治療研究部
青木吉嗣
【国立成育医療研究センター】
●分子内分泌研究部
深見真紀
【国立長寿医療研究センター】
●老年内科
前田圭介
【国立循環器病研究センター】
●心不全病態制御部
大宮茂幹
【国立がん研究センター】
●造血器腫瘍研究分野
北林一生