がん患者さんの新型コロナウイルス抗体の保有状況とがん治療と抗体量の関連について
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区、以下「国立がん研究センター」)とシスメックス株式会社(本社:神戸市、代表取締役会長兼社長 CEO:家次 恒、以下「シスメックス」)は、がん患者さんにおける新型コロナウイルスの罹患状況とリスクを評価するため、2020年8月から10月にかけて500名のがん患者さんと1,190名の健常人について新型コロナウイルスの抗体保有率と抗体量を調査しました。
その結果、明らかな新型コロナウイルスの罹患歴のないがん患者さん並びに健常人における抗体保有率はいずれも低く、差がないことがわかりました。一方で、抗体の量は、がん患者さんは健常人と比較し低いことが明らかになりました。これは年齢、性別、合併症の有無、喫煙歴といった因子で調整しても有意な差を認めました。さらに、がん治療が抗体量に与える影響を検証したところ、細胞障害性抗がん剤を受けているがん患者さんでは抗体量が低く、免疫チェックポイント阻害薬を受けている患者さんでは抗体量が高いことが明らかになりました。本研究結果により、がんの合併、並びにがん薬物療法が抗体の量に影響を与える可能性が示唆されました。
本調査結果は、国際的な医学雑誌「JAMA Oncology」オンライン版(2021年5月28日付)に掲載されました。
また本研究は、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)の支援を受け実施しました。
発表のポイント
- がん患者さん並びに健常人の新型コロナウイルス抗体保有率と抗体量を、国立がん研究センターとシスメックスが共同開発した抗体検出試薬を用い評価しました。
- 測定の結果、がん患者さんと健常人では、抗体保有率に差はありませんでした。
- 抗体量は、がん患者さんは健常人と比較し有意に低いことが明らかになりました。
- 細胞障害性抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬といった薬物療法が、がん患者さんの抗体量に影響を与える可能性が示唆されました。
本研究結果の解釈と注意
- 感染リスクが高いと考えられているがん患者さんにおいても抗体保有率は低いことから、感染対策が十分になされていたこと、無症候性感染の頻度が高くないことが示唆されます。
- がん患者さんは健常人よりも抗体量が低いことが示されましたが、この抗体量の違いが感染リスクや重症化リスクに影響しているかについては明らかにはなっておらず、更なる検討が必要です。
- 今回の研究では、健常人として国立がん研究センター職員にご協力いただいています。同職員は、医療従事者として通常の通勤、勤務を行っていること、一部の職員においては新型コロナウイルス感染症患者さんの対応を行なっていることから、一般社会における健常人よりも抗体量が上昇している可能性もあり、解釈には一定の注意が必要です。
- がん患者さんでは細胞障害性抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬の治療歴によって抗体量の違いが認められており、がん薬物療法が新型コロナウイルス抗体の産生に影響を及ぼしている可能性も示唆されます。
- しかし、現時点でこの結果からがん患者さんの治療方針を変更するといった判断に結びつけることはできません。
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がん患者さんの新型コロナウイルス抗体の保有状況とがん治療と抗体量の関連について (PDF:803KB) (外部サイトにリンクします。)