難治性サイトカインストームを低減する経自律神経的炎症制御カテーテルの開発
昨今のCOVID-19パンデミックのように、重症感染症は現代医療を用いたとしても命を奪う可能性があります。人の体は本来、病原体に対して適切な免疫応答によって病原体の駆除に当たります。しかし、その反応が適切でない場合や過剰に働いてしまう場合に自分の体を攻撃し、さらに重症化することがあります。
自律神経系は免疫応答の調節に深く関与していることが知られており、神経を介した炎症調節を行うことで病原体の駆除や組織の再構築を行います。我々は、自律神経系に電気的に介入する手法についてこれまでに様々な検証を行ってきました。その過程において、副交感神経系を血管内から電気刺激するカテーテルを開発し、臨床応用に挑戦しています。
今回の研究では、このカテーテルが重症感染症時における免疫過剰状態(サイトカインストーム)に有効性を発揮するのではないかと考えました。もともと、動物実験では、サイトカインストーム時に迷走神経刺激を行うと過剰炎症が抑制されることが知られています。臨床にも応用可能な開発中カテーテルをこの病態に応用することで、重症感染症患者さんを救う新しい手段になると考えています。
人類の歴史を振り返りますと、COVID-19パンデミック後にも新たな感染症パンデミックは高い確率で起こります。病原体は異なるかもしれませんが、最重症期に起きるサイトカインストームに対して治療法を持つことは非常に意義があると考えています。本研究期間においては、大動物重症炎症モデルを用いて、副交感神経刺激カテーテルの効果や理想的な刺激方法について検証を行います。また、国立国際医療研究センターの協力を得て、医療現場のニーズに沿った自律神経調節方法を検討していきたいと考えています。
研究のイメージ図
期待される効果
- 重症感染症に併発するサイトカインストームに対する治療手段の開発
- 日本発の医療機器開発
主任研究者
松下裕貴(国立循環器病研究センター 循環動態制御部 リサーチフェロー)
私はこれまで集中治療医として重症患者の治療に携わり、重症感染症に併発するサイトカインストームによる全身状態への影響を強く感じてきました。サイトカインストームに対する治療として、これまで薬物治療や血液浄化等を用いた多くの試みが行われておりますが、強力な改善効果を示す治療法は確立されておりません。副交感神経刺激カテーテルは生理学的にも有効性が期待され、重症感染症治療を大きく変えるデバイスになり得ると考えています。
分担研究者
【国立国際医療研究センター】
- 循環器内科
富所大輝