SA-T細胞を抑制する化合物の探索とその加齢性疾患改善への応用
本研究は、老化にともなう免疫機能の低下や慢性的な炎症を予防、改善する薬剤を開発することを目的にしています。免疫系は、ウイルスや細菌といった病原体から私たちの体を守る働きをしています。しかしながら、高齢になるとともにその機能は低下し、病原体に対する抵抗力が弱くなってしまいます。また、免疫系が老化することにより免疫細胞の制御が効かなくなり、慢性的な炎症が誘導されることもあります。実際に、免疫系の老化による炎症が、多くの加齢性疾患の一因となっているといわれています。
加齢にともなう免疫系の変化のひとつとして、通常とは異なるリンパ球が蓄積することが知られるようになってきました。例えば、病原体に応答して他の免疫細胞に指示を出すヘルパーT細胞とよばれるリンパ球では、老化関連T細胞(SA-T細胞)という特殊なT細胞の割合が年齢とともに増加することが明らかになっています。SA-T細胞は、通常のヘルパーT細胞のように病原体に応答することはなく、代わりにオステオポンチンなどの炎症を誘導する因子を分泌することで慢性的な炎症を誘導します。
そこで本研究では、SA-T細胞の数を減らしたり、機能を抑制したりすることで、その影響を低下させ、免疫系を若い状態に保つことができるような薬剤を開発したいと考えています。具体的には、薬剤のもととなる様々な化合物をT細胞に作用させ、SA-T細胞の数や、オステオポンチンの分泌を抑制できる化合物を探索します。機能が確認された化合物は、加齢したマウスに投与し、SA-T細胞の数が低下するか、あるいは、免疫機能が改善するかといったことを確認し、実際に薬剤として使えるかを検討します。
この研究によって、有効な薬剤が見つかることにより、加齢にともなう免疫機能の低下や疾患が改善され、人々が年齢を重ねても健康に生活できる社会になることを目指しています。
研究のイメージ図
期待される効果
- 加齢にともなって増加するT細胞を抑制する薬剤ができることで、免疫系が関与する加齢性疾患を予防、改善できることが期待されます。
- 薬剤により免疫系を若い状態に保つことにより、年齢を重ねても感染症への抵抗力を維持できる可能性が生まれます。
主任研究者
山内夢叶(国立長寿医療研究センター 研究推進基盤センター共同利用推進室 研究員)
免疫機能は病原体から私たちを守る重要な働きをしていますが、免疫系が老化すると、さまざまな加齢性疾患を悪化させたり、生体機能の低下を引き起こしたりすることが知られるようになってきました。私は、年齢とともに蓄積し、炎症の原因になっているSA-T細胞に着目し、その機能を抑制する薬剤の開発を目指しています。免疫系を若い状態に保ち、ご高齢者が長く健康に生活できる様になることを目指して、研究を進めていきたいと思います。
分担研究者
【国立がん研究センター】
- 先端医療開発センター ゲノムトランスレーショナルリサーチ分野
鎌田諒