実装科学推進のための基盤構築事業
研究概要
実装科学推進のための基盤構築事業は、6つのナショナルセンター(NC)の連携の強みを活かした「健康格差是正のための実装科学ナショナルセンターコンソーシアム(N-EQUITY, National Center Consortium in Implementation Science for Health Equity)」を2019年12⽉に設⽴しました。
実装科学は、エビデンスに基づく介入(EBI)を、医療機関、医療保険者、都道府県、市町村などでの日々の活動の中に効果的、効率的に取り入れ、連続性をもって根付かせる方法を開発、検証する学問領域で、疾病予防から早期発見、治療、支持療法、サバイバーシップ、緩和ケアまで幅広いテーマを扱います。
しかし、実装科学の方法論、重要性についてわが国ではほとんど認知されていないのが現状です。本事業では、それぞれに専門性を有する6つのナショナルセンターが連携し、予防(循環器疾患、糖尿病、がん)やサバイバーシップ、緩和ケア(心不全、慢性閉塞性肺疾患、認知症、がん)領域での研究プロジェクトを実施し、実装研究のモデルケースとして研究成果を幅広く発信し、実装科学の重要性を広めていきます。
期待される効果
N-EQUITYは自らの研究の実施、もしくは研究体制構築支援を通して、疾患横断的に実装研究を推進します。これにより、EBIを実社会に根付かせる方法(実装戦略)を開発・検証し、健康寿命の延伸、健康格差解消を目指します。
- 我が国においてエビデンス・プラクティスギャップ(研究によるエビデンスが、必ずしも現場で実践されていない状態)があり、実装研究が必要なテーマを同定します。
- 患者、市民、関連企業、医療者、行政機関、研究者など様々なステークホルダーの参画を得て科学諮問委員会を組織し、研究コンセプトを質高くピアレビューできる体制を構築します。
- 実装を把握するためのモニタリングシステムを構築し、研究と実践の有効な循環モデルを作ります。
研究の進捗・成果
1)「実装研究のための統合フレームワーク-CFIR-」日本版の刊行
保健医療福祉における普及と実装科学研究会(RADISH)との協働により、「実装研究のための統合フレームワーク-CFIR-」日本版を2021年3月15日に発行し、公開しました。CFIRは、Consolidated Framework for Implementation Researchの頭文字を取ったもので、Damschroderらによって2009年に発表されたものです。これにより、実装研究を始めるときにエビデンス・プラクティスギャップがなぜ生じているかを明らかにし、実装戦略を開発する際の枠組みを提供します。
RADISHのウェブサイトで公開しています。(https://www.radish-japan.org/resource/cfirguide/index.html)(外部サイトにリンクします)
2)『ひと目でわかる実装科学:がん対策実践家のためのガイド』の刊行
RADISHとの協働により、翻訳書『ひと目でわかる実装科学 がん対策実践家のためのガイド』を2021年9月30日に発行し、公開しました。
本書は、米国国立がん研究所(National Cancer Institute, NCI)実装科学チームから出版された、がん対策実践家に向けて作成されたガイド"Implementation Science at a Glance"(https://cancercontrol.cancer.gov/sites/default/files/2020-07/NCI-ISaaG-Workbook.pdf)(外部サイトにリンクします)を翻訳したものです。本書はエビデンスに基づく介入を実装するための体系的なアプローチを、Assess 事前に確認する → Prepare 準備する → Implement 実施する → Evaluate 評価する、という4つの段階に分けてまとめられており、それぞれの段階で考慮するべき重要なポイントが整理されています。また、巻末にはケーススタディも掲載されており、これらが実際の現場でどのように機能しているのかを具体的に理解することができます。本書には、がん分野に留まらない、さまざまな臨床現場や公衆衛生分野において共通する実装科学のエッセンスがまとめられています。
RADISHのウェブサイトで公開しています。(https://www.radish-japan.org/resource/isaag/index.html )(外部サイトにリンクします)
3)実装研究の相談窓口の開設
N-EQUITYのホームページを開設し、実装研究に関するテーマの提案や相談をNCに限らずNC外からも受け付ける体制を整備しました。https://www.ncc.go.jp/jp/icc/behav-sci/n-equity/index.html(外部サイトにリンクします)
4)実装研究テーマのリスト化
N-EQUITYメンバーにより優先すべきテーマをリスト化しました(2021年9月現在 計20テーマ)。各テーマにはメンターが決められ、実装研究の企画立案から完遂までの支援計画が提案されました。
5)科学諮問委員会における実装研究プロトコル承認のプロセス
N-EQUITYは、患者・市民を含む外部の有識者から構成される科学諮問委員会を設置し、実装研究のプロトコルの審議を行います。第1号として、実装研究のPhase 2実装試験「中小事業所における事業主および健康管理担当者による喫煙対策を支援する介入の有効性評価:クラスターランダム化比較試験」について、科学諮問委員会(令和3年1月20日)に諮りN-EQUITY2101試験として承認されました。
主任研究者のコメント
内富庸介(国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発センター/がん対策研究所)
N-EQUITYの呼称には、健康格差是正に向けてオールジャパンで実装科学に取り組もうという関係者の熱い決意と、利他の願いが込められています。N-EQUITYは、6つのナショナルセンターの目的、国策を踏まえて、国民、保健医療福祉関係者、研究者と一緒に恒常的な研究体制を構築し、継続的に市民、患者、家族の健康寿命の延伸をめざします!成果と同時に多くの若手研究者の誕生を願ってやみません。
分担研究者
【国立がん研究センター】
・がん対策研究所 行動科学研究部
島津 太一、藤森 麻衣子
【国立循環器病研究センター】
・心臓血管内科
泉 知里
・オープンイノベーションセンター
宮本 恵宏
【国立精神・神経医療研究センター】
・精神保健研究所
金 吉晴
【国立国際医療研究センター】
・国際医療協力局運営企画部
明石 秀親
・がん総合診療センター 兼 乳腺・腫瘍内科
清水 千佳子
【国立成育医療研究センター】
・政策科学研究部
竹原 健二
【国立長寿医療研究センター】
・老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
小嶋 雅代