電子カルテ情報を活用したリアルワールドデータ収集・提供基盤の構築事業
テクノロジーの進化とともに私たちの生活は大きく変化する時代となり、AIの実用化など大規模データの利活用が進展しています。病院の診療で得られた臨床情報をデジタルデータとして自動収集し、個人情報に配慮した提供を可能とする基盤を構築することで、国内全体の医療分野の研究活動の円滑化・活性化が期待できます。これまで国内で行われてきた臨床研究では、医師や医療スタッフが、忙しい業務の中でカルテから必要な情報を手作業で収集していました。この方法では、情報収集に関わる医療者の負担が膨大となるとともに、収集できる情報量にも限りがあります。そこで、近年特に注目されている手法が、電子カルテから直接データを収集する手法です。電子カルテ画面から転記することなく、直接情報を収集するため、労力が大幅に軽減されます。
本研究では、6つのナショナルセンター(6NC:国立がん、国立循環器、国立精神・神経、国立国際、国立成育、国立長寿)の複数の電子カルテ事業者が構築した、異なるデータベース構造を持つ電子カルテデータベースから臨床データを抽出し、共通利用可能な大規模な統合診療情報データベースを構築することを目的としています。
研究期間中に、課題を明らかにしつつ以下のことを実現します。
- 各NCの電子カルテ内の構造化された診療情報(病名、処方、検査結果)を収集し、横断的に検索し、必要に応じて研究データとしてNCの臨床研究に提供するシステムを構築します
- 電子カルテのテンプレート(定型入力画面)を、電子カルテシステムに自動的に取り込む機能を開発し、必要な記載情報を構造化して収集する仕組みを開発します
- 構造化されていないデータや画像データの取り扱いおよび活用の方向性を示します
- 収集した各NCのデータを用いたナショナルセンター・ バイオバンクネットワーク(NCBN)との連携や個人の医療データであるパーソナルヘルスレコード(PHR)などの新たなサービス等の可能性について検討します
- データ連携に当たっては、HL7 FHIR等の最新の標準規格の成果を積極的に取り入れます
研究のイメージ図
期待される効果
電子カルテのデータを活用した研究が効率的に行えるようになり、疾患研究・治療法開発に寄与することが期待されます。この事業の成果は、ナショナルセンター以外の全国の医療研究機関とも共有し、広く活用されることを目指しています。
研究の進捗
国立国際医療研究センター(NCGM)にデータセンターを置き、NCGMの電子カルテデータの集積を開始しました。データセンターには各NCと安全な通信が可能なVPN機器を設置しています。各NCから、順次データ送信が進められています。各NCの電子カルテデータは、診療情報連携の標準規格である「SS-MIX2」というシステムを介し、専用のシステムでデータ抽出・匿名化を行った上で、バーチャルプライベートネットワーク(VPN)経由で暗号化しデータセンターに送信されます。送信開始時にはデータの妥当性の確認を行い、抽出条件の調整を行っています。
集積されるデータの精緻化・拡大に向け、以下の課題の検討も進めています。
①医療情報の交換・共有の質の向上を目的とした、診療データのコード整備
多施設から収集したデータ活用に当たって、薬剤や検査などのコードの不一致や欠落がありデータが活用できない問題がよく起こります。各NCのシステムでコードを正確に出力するための改修を計画しています。
②電子カルテのテンプレート共通化に向けた仕様検討
電子カルテからの情報収集に用いられるテンプレート(定型入力画面)について、事業者共通の仕様を策定し、1回の作業で多施設にテンプレートを展開できることを目指し、共通仕様についての検討を開始しています。共通仕様は医療情報データ連携の国際的な標準規格であるHL-7 FHIRに準拠する予定です。
主任研究者
波多野賢二(国立精神・神経医療研究センター 情報管理・解析部データマネジメント室長・病院医療情報室長)
国内の医療機関に電子カルテの導入が開始され20年余りたち、システムで収集・蓄積された診療データの活用がますます期待されています。その際には多くの施設のデータを集めて大規模なデータベースを作ることが有用ですが、施設によってシステムが異なり、データの統合が難しいなどの課題があります。本研究では、6つのナショナルセンター病院の診療データ統合を目指しており、その成果を広く全国の医療研究機関と共有し、データ活用による疾患研究・治療法開発に寄与することを目指しています。
分担研究者
【国立国際医療研究センター】
・医療情報基盤センター
美代賢吾、石井雅通、星本弘之
・国府台病院
佐藤琢紀
【国立がん研究センター】
・中央病院
三原直樹
【国立循環器病研究センター】
・情報統括部
平松治彦、櫻井理紗、板頭信浩
・医療情報部
山本剛、奈良崎大士
・研究推進支援部
上村幸司
【国立成育医療研究センター】
・情報管理部
野口貴史
【国立長寿医療研究センター】
・治験臨床研修推進センター
渡辺浩、伊藤健吾、鈴木啓介
・研究所
新飯田俊平
【国立精神・神経医療研究センター】
・睡眠・覚醒障害研究部 臨床病態生理研究室
北村真吾