U1 snRNA変異型髄芽腫における異常RNAスプライシングの解明とドライバーイベントの同定
本研究では、小児腫瘍の中で最も予後不良である髄芽腫に対する新規治療法の開発を目指しています。小児脳腫瘍は小児がんの中で最大の死亡原因であり、その中でも髄芽腫は最も予後不良な疾患です。現在の標準治療は手術、放射線化学療法による集学的治療ですが、高次脳機能障害・神経障害・内分泌障害といった副作用のため患者のQOLが著しく障害されます。このような治療にもかかわらず予後は不良であるため、新たな治療法の開発が望まれています。
国立がん研究センター研究所 脳腫瘍連携研究分野では、髄芽腫の全ゲノムデータを再解析することにより、U1 small nuclear RNA(U1 snRNA)変異を世界に先駆けて発見しました。この変異は、これまで報告された髄芽腫の遺伝子変異の中で最も頻度の多い変異です。U1 snRNAは、細胞内で様々なRNAを認識し、RNAが正しく機能するように処理を行います。U1 snRNA変異により、正常とは異なったRNAを認識してしまうと考えられますが、これらの異常は腫瘍特異的なものであるため、有望な治療標的になりうると考えられます。しかし、これまでのショートリードシークエンスという解析手法では、広範に生じる異常の中で、どのイベントが腫瘍の病態に関与するのかが未解明であり、このことが治療開発の課題となっています。そのため、本研究では、ロングリードシークエンスと脳腫瘍マウスモデルを用いたスクリーニングにより、U1 snRNA変異によって髄芽腫に生じる真のドライバーイベント(がんの発生、増殖の直接的な原因となる現象)を同定します。本研究は国立がん研究センターと国立精神・神経医療研究センターの共同研究により行われます。両施設は髄芽腫研究において共に世界有数の研究実績を有しています。それぞれの研究室がお互いの強みを活かしながら連携して研究を行うことで、U1 snRNA変異型髄芽腫に不可欠なドライバーイベントを同定し、新規治療への橋渡しを行うことを目指しています。
研究のイメージ図
期待される効果
髄芽腫発生の真のドライバーイベントの同定
同定したドライバーイベントを標的とした新規治療の開発
腫瘍細胞に特異的な変化を標的とすることで副作用の少ない治療が期待できる
主任研究者
畝田篤仁(国立がん研究センター研究所 脳腫瘍連携研究分野、研究員)
国立がん研究センター研究所脳腫瘍連携研究分野では、様々な脳腫瘍に対するシークエンス(DNAなどの配列を読む技術)解析を行い、その病態を明らかにすることで、悪性脳腫瘍の治療の改善を目指して研究を行っております。本研究では、U1 snRNA変異によって生じる真のドライバーイベントを同定することで、小児腫瘍の中で最も予後不良である髄芽腫に対する新規治療法の開発を目指しています。
分担研究者
【国立精神・神経医療研究センター】
神経研究所 病態生化学研究部
水野 ローレンス 隼斗