気管グラフト創出のための高静水圧処理条件の最適化
本研究は、ブタの気管から細胞成分を除去(脱細胞化)することでヒトに移植しても拒絶反応が起こらない人工気管の開発を目指しています。生体組織に数千から1万気圧の圧力をかけると、拒絶反応の原因となる細胞が破壊され、洗浄によりタンパクなどの細胞外成分のみを残すことができます。脱細胞化組織を用いることの利点は、(1)従来の生体組織が持つ強度や柔らかさをそのまま活用できる、(2)徐々に組織が分解され将来的には自身の組織への置換が期待できることにあります。そのため、小児の気道狭窄などで気管再建が必要になった場合に、患者さんの成長に合わせて徐々に分解される人工気管としての利用が期待されます。現在、このような機能性脱細胞化気管の実現を目指して以下の課題に取り組んでいます。
- 細胞成分を完全に除去するための処理方法の検討
移植した気管にブタの細胞成分が残っていると、免疫反応が起こる可能性があります。高圧処理工程の条件を最適化することで、細胞成分をより徹底的に除去できる処理条件を検討しています。 - 高圧処理による滅菌効果の底上げ
食品加工の分野では賞味期限の長い商品を開発するために、高圧処理による殺菌効果が広く活用されてきました。高圧処理は多くの菌に有効ですが、耐性の高い菌も一部存在します。医療機器にては菌を完全に除去する「滅菌」が求められます。そこで、滅菌効果の高い高圧処理を目指して処理条件を検討しています。 - 組織再生性の検証
脱細胞化処理したブタ気管をマウスの背中に移植して、組織反応性を評価しています。移植した人工気管が徐々に分解され、将来的に自身の気管と置き換わることを目指して、組織の分解速度を制御する技術の構築を目指しています。
研究のイメージ図
期待される効果
- 患者の成長に合わせて生長する人工気管により気管再建技術を革新することで、小児呼吸器疾患における治療の質の向上を目指します。
- 高圧処理は生体分子へのダメージが比較的軽微な処理であり、十分な滅菌効果を達成する処理条件を確立することで、今まで滅菌が困難であった生体由来材料の開発にも貢献できると考えます。
主任研究者
大高晋之(国立循環器病研究センター、生体医工学部、上級研究員)
高圧処理はエネルギー効率が高く、薬剤などの化学的処理が不要なことから環境にやさしい技術として注目されています。脱細胞化効率の向上や、滅菌効果を向上させることで、高圧による脱細胞化処理の持つポテンシャルを引き出し、脱細胞化生体組織をベースとした再生医療への貢献を目指しています。
分担研究者
【国立循環器病研究センター】
●生体医工学部
大高晋之
【国立成育医療研究センター】
●メディカルゲノムセンター
青砥早希