医療前のライフログデータおよび健診結果を活用する予測先制医療のための研究
スマートフォン等を含む近年の情報通信技術(Information and Communication Technology[ICT])の発展は著しく、健康情報を含む各種の個人情報を自身が持ち歩くことが可能となりつつあります。個人番号(マイナンバー)を用いた個々人によるパーソナルヘルスレコード(PHR)の管理・利活用を目指して、2019年9月「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」(現「健康・医療・介護情報利活用検討会 健康情報ワーキンググループ」)が行政主導のもと立ち上げられました。「国民が効果的に保健医療情報を活用できる環境を整備するためには、公的に最低限の利用環境を整備するとともに、民間PHR事業者の活力を用いることが必要不可欠(第4回健康・医療・介護情報利活用検討会資料より抜粋)」とされ、民間PHR事業者の活用については、厚労省、総務省、経済産業省が連携して検討を進めています。その重要課題に「相互運用性の確保」が挙げられているなかで、個人の生活や活動をデジタル記録したライフログデータについては各事業者の開発に相違があり、相互互換性がない形で各データを管理していることから、個人が携帯電話やタブレットといったデバイスやアプリを乗り換えてもデータが移行できるよう、標準化することが求められています。また、一個人のライフコースを網羅するPHRの統合・活用が可能となりつつある中で、そのニーズや実態についての知見が必要とされてきています。
本課題では6つのナショナルセンター(6NC:国立がん、国立循環器、国立精神・神経、国立国際、国立成育、国立長寿)が得意とする疾患領域が胎生期から老年期まで至ることに注目し、まずは各NCの研究者が共同してそれぞれが得意とする各種PHRおよびライフログデータを洗い出し、6NCが各項目の蓄積について知見を集積します。そして、関係各省庁やウェアラブルデバイス(腕などの体の一部に装着するコンピュータ)を実装する事業者と連携して、ライフログデータの標準規格の案を作成し、先制医療と呼ばれるような、発症前に病気を予測したり発症を防ぐための治療的介入に貢献できるよう、PHRの枠組みの基盤構築を目指します。
研究のイメージ図
期待される効果
- 個人は一連のライフコースのデータを確認することが可能となります。
- 標準化されたデータが収集されることで、産官学連携の共同研究等に活用可能となり、継続可能な国家ヘルスケアシステムの構築に資する基盤を提供できます。
- 本研究の成果は6NC内部に留めることなく幅広く活用できるよう標準化のガイダンス(案)を作成し、産官学連携して国内に展開、社会実装していくことを考えています。
主任研究者
宮本恵宏(国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター センター長)
健康に長寿を得るためには、健康的な生活習慣を身につけることが重要です。また、生活が楽しくなければ健康であるとは言えません。現在、普段の生活習慣の記録(ライフログ)を負担なく収集し、適切なアドバイスや気づきを与えてくれる道具として様々なデバイスが開発されています。しかし、疾患ごとに研究や開発が進められていて、データをお互いに活用することはまだ十分されていません。
この研究事業では、様々な病気の予防のためのライフログデータを活用した研究成果を連携することで、ライフログデータの共通基盤を作ることを目標にしています。それにより、皆さんが使われるデバイスの利用範囲が広がり、費用の面でも社会で普及しやすくなることが期待されます。そして、それが社会実装されることで病気を予防することにつながると考えています。
分担研究者
【国立循環器病研究センター】
・ゲノム医療支援部・遺伝情報管理室
冨田努
・糖尿病・脂質代謝内科
橡谷真由
・予防医療部
渡邉至
・情報統括部
平松治彦
・予防医学・疫学情報部
西村邦宏
・健診部
小久保喜弘
【国立がん研究センター】
・社会と健康研究センター
井上真奈美、田中詩織
【国立精神・神経医療研究センター】
・精神保健研究所
住吉太幹、白間綾、末吉一貴、長谷川由美
【国立国際医療研究センター】
・糖尿病研究センター
大杉満
【国立成育医療研究センター】
・周産期・母性診療センター
荒田尚子
・研究所
川﨑麻紀
・臨床検査部
徳田治彦