組織1細胞解析によるSpatial Pathogenomicsの基盤構築
「組織1細胞解析」とは、1細胞レベルの遺伝子、タンパク質の発現などを、網羅的に解析することです。組織の部位ごとのRNA※1やタンパク質の量的な分布を解析する技術で、病理学的解析法を刷新する新たな技術といえます。
本研究は、各ナショナルセンター(NC)で得られた検体の組織標本の1細胞レベルの解析を行い、様々な疾患の診断治療に役立てる事を目的とした、各NC共通の研究基盤を構築します。
研究ではまず、各ナショナルセンターの患者さんから、①手術で切除した病気の部分の組織の残余試料と、②病理診断や治療内容などの病気に関する臨床情報、この2点を提供していただきます。その後、組織1細胞解析で、組織中の各細胞における詳細な遺伝子発現情報、タンパク発現情報を解析します。さらに、これらの情報と病理学的情報、ゲノム情報との統合を行います。これによって、これまでの方法では分からなかったそれぞれの病気の本態についての情報が得られると考えています。
また、6NCの連携のもと事業を集約化し、研究ノウハウやリソースを共有することによって、疾患横断的・効果的な研究開発推進を提案するとともに、バイオインフォマティクス※2等に精通した学際的な素養を持つ若手人材の育成も行っていきます。
本研究で得られた研究基盤を軸に、NC間のみならずアカデミア等の関連機関との連携を促進し、双方向性の連携体制を構築する事で、日本全体の研究成果の最大化を目指します。
- RNA:DNAの遺伝情報をコピーしたり、そのコピーした情報を元にタンパク質を作ったりします。
- バイオインフォマティクス:情報科学を、医学や生物学の分野に応用したもので、膨大な遺伝情報などを情報科学を用いて解析したりすることです。
研究のイメージ図
期待される効果
- 疾患病態の新たな理解
- 新しい診断法、治療法の開発
- 技術開発や展開などの、6NCの連携強化
- 若手人材の育成・循環
主任研究者
岡本康司(国立がん研究センター 分子標的研究グループ がん分化制御解析分野 分野長)
組織の病理学的解析は、様々な病気の臨床診断の根幹であるだけでなく、病態を理解する上で多くの重要な情報を与えてくれます。近年、病理組織切片上で包括的な遺伝子発現を行う技術が開発されました。これらの技術は、空間的トランスクリプトーム解析、または組織1細胞解析などと呼ばれますが、これらの方法により疾患に関わる細胞とその周囲の微小環境が構成する病態ネットワークの理解が格段に進む事が予想されます。本JH横断的研究課題では、この解析法をナショナルセンターでの様々な疾患研究に応用する事により、それぞれの病気の本態解明に役立てることを目指します。これらの解析を通じて、画期的な診断法、治療法を構築する事により、より良い医療に貢献したいと考えています。
分担研究者
【国立がん研究センター】
・研究所
濱田哲暢、関根圭輔、神田裕介、森裕太郎、森泰昌、柳下薫寛
鈴木美記子、劉晶楽、
・中央病院
谷田部恭
【国立国際医療研究センター】
・研究所
考藤達哉、田久保圭誉、粟澤元晴、由雄祥代、山添太士
小林央、森川隆之、小林直樹
【国立長寿医療研究センター】
・研究所
新飯田俊平、渡辺研、細山徹
【国立循環器病研究センター】
・研究所
望月直樹、畠山金太、大郷恵子
【国立成育医療研究センター】
・研究所
鳴海覚志
【国立精神・神経医療研究センター】
・神経研究所
村松里衣子
【東京大学医学部附属病院】
・病態栄養治療部
窪田直人
・糖尿病代謝内科
戸田郷太郎