糖尿病治療を目的とした異種移植用の新規大型ドナー動物「PHLDA3 欠損ブタ」の臨床応用を目指して
研究概要
本研究では、糖尿病治療を目的とした異種移植の新規大型ドナー動物の臨床応用のための基盤研究を行います。
膵臓はその約9割以上を外分泌腺が占め、その中に内分泌細胞が集まる膵島が浮かんで存在している臓器です。膵島の機能が破綻し、インスリン分泌が異常になると糖尿病を発症します。糖尿病患者の治療として膵島移植が行われていますが、残念ながら、その治療成績は満足できるものではなく、様々な課題の克服が必要です。特に膵島移植のためのドナー膵臓は、脳死臓器提供が受けられるようになった昨今においても不足しています。また、膵島移植時のストレスや拒絶反応などによって多くの膵島が失われ、残った膵島についてもインスリン分泌能が著しく低下します。これらの課題を克服するためには、膵島としての機能に優れ、移植早期のストレスに抵抗性の膵島を数多く有する、新たなドナー動物を作出することが必要です。
ヒトのインスリンと相同性がある大型ドナー動物は、一頭から患者一人に移植に必要な数の膵島が確保できるため異種移植のドナーとして最適です。しかし、膵島は非常に脆弱であり、有効利用には何らかの工夫が必要です。我々はこれまでにPHLDA3が、がん遺伝子Aktの抑制因子であることを明らかにしています。また、PHLDA3機能欠損マウスでは、膵島細胞のAkt活性が上昇することで、膵島細胞の増殖亢進、膵島過形成、膵島細胞のストレス抵抗性獲得が認められることを示しました。さらには、PHLDA3機能欠損膵島を用いることで膵島移植の効率が上がることも明らかにしました。これらの研究成果を受け、我々はPHLDA3の機能を抑えた大型動物の膵島を用いた研究を進め、糖尿病治療を目的とした異種移植の新規大型ドナー動物として将来の臨床応用に展開するための基盤となる研究を行っています。
研究のイメージ図
期待される効果
大型動物を用いた異種移植は、膵島移植の課題であるドナー不足を解決する手段の一つです。異種移植による膵島移植の治療成績の向上のためには、移植される膵島の質が重要です。強靭で機能の良い膵島を多数有する大型ドナー動物の作出がその対策として考えられますが、PHLDA3の機能を抑えた大型動物は、この目的に非常に合致したドナーとなります。本研究を進めることで、膵島移植におけるPHLDA3機能抑制の有効性が大型動物で証明され、PHLDA3の機能を抑えた大型動物を膵島移植ドナーとして臨床応用するための基盤が確立されます。
主任研究者
陳 妤(チン ヨ)(国立がん研究センター研究所・基礎腫瘍学ユニット・特任研究員)
PHLDA3の機能を抑えた大型動物の膵島を用いることにより、必要な時に必要な量の高機能な膵島を用意することが可能となることが期待されます。日本を代表する膵島・糖尿病研究の専門家と協力して、異なる専門分野の共同研究を通じて、必ず糖尿病治療に結びつく、実り多い研究成果を得ることが期待されます。
分担研究者
【国立国際医療研究センター研究所】
膵島移植企業連携プロジェクト
篠原 孝也
膵島移植企業連携プロジェクト
霜田 雅之