超早期発症型炎症性腸疾患の子どもをもつ親の子育ての特徴、心理社会的特徴、支援ニーズに関する横断研究
研究概要
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)とは、大腸などの消化管に慢性的に炎症や潰瘍が起きる病気で、なかでも6歳未満で発症し、診断されたIBDは超早期発症型炎症性腸疾患(very early onset IBD: VEO-IBD)といわれます。国内では年間40名程度、新たにVEO-IBDと診断される子どもがおり、治療の難しさなどから注目されています。また、VEO-IBDのほとんどは完治しない慢性疾患です。そのため、薬物療法や栄養療法などをしながら、IBDの症状が落ち着いている「寛解」を保ち、その子らしい成長と発達を可能にすることが大切な治療目標となります。寛解を保つために、親は子どもの生活管理や治療への責任ある決定など、多くの負担を負っています。特に、乳幼児や学童前期のVEO-IBD児をもつ親は、子どもの食事や排泄、服薬管理などVEO-IBDに関わる日々の負担が大きいため、健康な子どもをもつ親よりもメンタルヘルスや社会的健康が悪化している可能性があります。しかし、このような親の特徴や状況については、世界的にも報告がありません。
そこで本研究では、0~9歳のVEO-IBD児の親と、同じ年齢の健康な子どもをもつ親を対象に、子育ての特徴、心理社会的特徴、支援ニーズなどを調査し、VEO-IBD児の親の特徴やニーズを明らかにすることを目的としています。国内のおよそ20カ所の医療機関でVEO-IBD児の親に協力を依頼し、ウェブ質問紙への回答を得ます。VEO-IBD児と年齢・性別が同じ健康な子どもをもつ親からは、インターネット調査会社を通じてウェブ質問紙への回答を得ます。VEO-IBD児の親と健康な子どもの親の回答を統計学的に比較することで、VEO-IBD児の親の特徴を明らかにしていくとともに、その支援ニーズや実際の支援方法についても検討していきます。
研究のイメージ図
期待される効果
年少のVEO-IBD児をもつ親は、栄養や排泄といったVEO-IBD特有の問題への対処や、子どもの成長発達を支える重要な役割を担っています。また、子どもの病気の状態が悪いと、親自身が困難な状況に陥りやすくなります。そのため、VEO-IBD児をもつ親を理解し、支援することが重要です。
本研究は、これまであまり報告のないVEO-IBD児をもつ親の実情を明らかにし、親に即した具体的な支援を検討します。特に、子どもがVEO-IBD発症後、あまり時間のたっていない年少児の親を対象としており、親が支援を必要とする時期の適正な支援を検討することができます。また、VEO-IBD児をもつ家族支援の促進や、関連する研究の発展に寄与することが期待されます。
主任研究者
野村智実(国立看護大学校 小児看護学 助教)
私は看護師として長年、子どもと家族への支援や研究を行ってきました。慢性疾患児を育てる親は、子育ての中で多くの困難に直面しています。特にVEO-IBD児をもつ親は、親子関係を築く大切な時期に病気を発症するため、自責の念や心身の苦痛をもちながら、負担の大きい子育てをしています。親への支援は親の負担を軽減するだけでなく、子どもの健やかな成長や疾患コントロールの上でも重要です。私は本研究を通じて、親の支援の拡充に貢献していきたいと思います。
分担研究者
【国立成育医療研究センター】
消化器科
横尾実華子