希少疾患の症状・所見に重点を置いた、新規臨床データリソースの創出
研究概要
本研究では、希少疾患患者さんの症状・所見に重点をおいた個々人の症例データを、生成AIも活用することで実世界に近い形で創出します。これにより医療者、患者さんとそのご家族が学び易く、理解しやすいデータ資源を創り、早期診断に繋がる"診断資源"としての利活用の開発も行います。
希少疾患は、とても珍しく診断がつくまでに平均7-8年かかるとされ、患者さんやご家族は診断までに非常に辛い思いをします。患者さんが少なく、医療者が十分な診療経験を積むことが出来ない点も一因と考えられています。学ぶには教科書や臨床研究論文、そして症例報告が中心となりますが、一つ問題があります。それは、教科書や研究論文には典型的な患者さん、症例報告では非典型的な症状や診察の異常(所見)を呈した患者さんが報告され易い点です。なぜ問題なのか?それは全ての患者さんが登録・解析され無いので、患者さんの情報が偏る可能性があることから、実世界に即した全体像を掴み難くなるからです。場合によっては実際の患者さん像とは離れたイメージを学んでしまうかも知れません。
また、希少疾患患者さんが非典型的な症状で受診された際、診断はとても難しくなります。診断がついたとしても、目の前の患者さんが"この希少疾患の中で、どれくらい非典型的なのか?"ということを、現時点では知る手立てはありません。実世界に近い形での一人一人の患者さんに基づく症状・所見のデータを、"みんなが学び・活用するための学習・診断資源"、私たちはこれを創ることで、少しでも希少疾患の患者さんに貢献できるよう、研究に取り組んでいます。
研究手法は、公開されている論文や症例報告からの症状・所見を抽出し、実際の患者さんデータとの対応解析による出版バイアスの検証や、生成AIを活用した症例データの作成、さらに機械学習を用いた患者さんの症状・所見に基づくグループ分けや、時間経過を加えた症例情報の可視化を通して、希少疾患の分かり易く・学びやすいデータリソースを創出します。これらの取り組みも含めて、希少疾患患者さんの診療に役立つものを作ってゆきます。
研究のイメージ図
期待される効果
難病・希少疾患の全体像を、学び易く理解しやすい学習リソースができる。
公開が可能となれば、医療機関間や、患者―医療者間での情報格差を減らせる。
症例の集積に時間のかかる希少疾患の、研究を加速させられる。
症状・所見に重点をおいた新しい症例研究や研究開発の基盤構築となる。
主任研究者
土肥栄祐(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部 室長)
未診断患者さんの診療の際に、"自分がまだ知らない病気・勉強が及んでいない病気がある"と感じ入ることを多く経験し、患者さん一人一人の診療の度に勉強をして来ました。その都度、臨床研究や症例報告を大量に読むのですが、非常に時間がかかっていました。技術の力で、医療者と患者さんやそのご家族にとって、学びやすく理解しやすく、そして早期診断に繋がる"診断資源"を創りたいと考え、同じ志をもつ早川先生と取り組ませて頂いております。
分担研究者
【国立成育医療研究センター】
神経内科
早川格