血液バイオマーカーの認知症診療や検診への応用
研究概要
わが国の認知症の患者数は2030年には523万人にのぼると推計されており、その対策は喫緊の課題です。最近レカネマブやドナネマブといったアルツハイマー病の治療薬が登場したことや、生活習慣の改善や危険因子の軽減によって発症を遅らせる方法の研究が進んだこと等により、早期発見・早期介入による認知症対策が現実的なものになってきています。認知症を早期に発見するには、脳の中に生じている病的な変化(例えばアルツハイマー病の場合はアミロイドβという異常タンパク質が蓄積します)をなるべく早く、正確に捉える「バイオマーカー」という生体情報が必要ですが、従来はPETや髄液検査といった特殊な検査しか手段がありませんでした。しかしこれらの検査は、コストや侵襲性の問題があるため、一般的な診療場面での使用や検診のような大規模検査には不向きです。そこで、本研究は、より簡便で侵襲性が少ない血液検査によるバイオマーカーを、認知症の診療や検診に応用し、その有用性を検証していくことを目的としました。
本研究では、主に次の課題に取り組んでいきます。
- 認知症診療への応用:現状ではレカネマブ等のアルツハイマー病の治療薬を使えるかどうかを決めるためには、脳にアミロイドβが蓄積しているかどうかをPET、もしくは髄液検査で確認する必要があります。本研究では、血液バイオマーカーがこれらの検査前のスクリーニングに役立つか、あるいは、これらの検査の代わりになり得るかを検討します。また、治療効果を客観的にモニタリングしたり、脳のむくみや出血といった副反応出現の予測に役立つ血液バイオマーカーの開発を目指します。
- 予防医療への応用:血液バイオマーカーを高齢者の検診に応用することにより、認知症やその予備軍(軽度認知障害、あるいはMCIと言います)の早期発見・早期治療に繋げたり、あるいは無症状でも将来の発症リスクを有する方を捉えて発症の予防や遅延対策を提供していくことを目指します。
研究のイメージ図
期待される効果
- 血液バイオマーカーが診療場面で実用化された場合、認知症の診断補助や治療薬の効果のモニタリングや副反応予測に役立ち、更に患者さんの負担軽減や医療コストの削減にも繋がる。
- 高齢者の認知症検診に応用できれば、認知症やその予備軍の早期発見・早期治療に役立つばかりでなく、将来の発症リスクを有する方に対し、発症の予防や遅延対策プログラムを提供できる可能性がある。
主任研究者
中村昭範(国立長寿医療研究センター バイオマーカー開発研究長)
認知症の血液バイオマーカー研究は近年劇的な進歩を遂げており、実用化まであと一歩の段階まで来ています。私たちは、長年認知症のバイオマーカー開発に携わってきた経験を元に、この血液バイオマーカーの持っているポテンシャル(特に簡便で安全な血液検査で行えるという長所)を、日常診療や高齢者検診に最大限に生かしていけるような研究を目指します
分担研究者
国立長寿医療研究センター
脳機能画像診断開発部長 加藤隆司
研究所長 櫻井孝
国立循環器病研究センター
脳神経内科部長 猪原匡史
国立精神・神経医療研究センター
第四脳神経内科医長 塚本忠
司法精神診療部 第一司法精神科医長 大町佳永