核酸代謝異常に基づく疾患の横断的な代謝プロファイル構築とバイオマーカー探索、遺伝子細胞治療基盤の開発
研究概要
核酸代謝異常は、発がん、がん進展、先天性代謝障害、免疫不全、老化、心不全、神経変性疾患、筋肉疾患、細胞分化、幹細胞ストレス応答に関連します。分子生物学の進歩により、疾患の発症メカニズムや治療法開発が進み細分化されていく一方で、核酸代謝異常の共通した分子機構やモダリティに基づく横断的な疾患研究は、これまで展開されてきませんでした。遺伝子変異を伴うがんや先天的な小児疾患から、老化が主な原因となるがん、循環器疾患、神経疾患、筋肉疾患を研究対象とし、ナショナルセンター(NC)所属の研究者が保持している臨床検体、動物モデル、細胞モデルを用いて、高感度に核酸関連代謝産物を定量することにより核酸代謝からみる横断的な疾患研究を展開します。その結果、核酸代謝産物プロファイルを構築し、代謝バイオマーカーの発見や遺伝子細胞治療法の開発等に発展させます。高分子の核酸は生命の遺伝情報の保持と遺伝子発現を担うためすべての生物が保持しており、低分子の核酸プロファイルの解析により様々な疾患の本態解明の一助になる可能性が高いです。核酸代謝産物の高深度測定技術をNC間で共有し、研究対象の患者由来試料と疾患モデルの試料を用いて、核酸代謝産物プロファイルを構築します。その代謝産物の中には、新しい機能を保持している核酸物質の発見、疾患の確定診断に役立つ核酸物質や治療法の効果を予測可能とする代謝バイオマーカーが含まれていると想定されます。基礎研究者は疾患モデル由来の試料を用いてバイオマーカー候補のProof of Concept (POC)を中心に、臨床医を中心に臨床検体を使用して患者さんにフィードバック可能な研究を展開します。代謝バイオマーカー開発の候補として、肺がん、原発性複合免疫不全症、循環器疾患、老化関連疾患を検討します。さらに、6NCバイオバンクに保管されているプリン・ピリミジン代謝障害に関連する試料をメタボローム解析し、横断的な代謝プロファイルの構築を目指します。
研究のイメージ図
期待される効果
病院に行く時、疾患や症状のある臓器により受診する診療科が異なるように、医学研究は、高度に専門的な内容であるために、ある面縦割りに分かれています。そのために、学会発表や論文調査で、他の研究分野の話を聞く機会は多くありません。このJHの横断的研究推進の課題研究では、核酸代謝産物というキーワードを共通に、種々の疾患や疾患モデルを研究できるために、これまでにない新たな視点からの研究を展開できることが期待されます。構築する核酸代謝産物プロファイルは、論文発表だけではなく、より多くの人がアクセス可能なように、データベースへの登録も目指します。
主任研究者
牧野嶋秀樹(国立がん研究センター 先端医療開発センターユニット長)
がんは盛んな細胞増殖が特徴であり、エネルギー産生の糖代謝や細胞の構成成分の元になるタンパク質、脂質、核酸の生合成が盛んです。これまで、他の疾患のメタボローム解析の経験は少ないですが、特に老化、神経疾患、心疾患の疾患モデルを解析すると、がんの代謝的特徴とは大きく異なります。代謝変化の理解や解釈に苦労し大変ですが、患者さんのためにも新たな視点で本研究を頑張りたいと思います。
分担研究者
国立長寿医療研究センター
ジェロサイエンス研究センター
伊藤尚基
国立成育医療研究センター
成育遺伝研究部
内山徹
国立循環器病研究センター
心血管老化制御部
清水逸平
国立国際医療研究センター
生体恒常性プロジェクト
田久保圭誉
国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 神経薬理研究部
村松里衣子
国立がん研究センター
研究所 がん進展研究分野
吉田健一