質量分析法を利用した抗ウイルス薬の薬物動態解析の手法開発
HIVやCOVIDをはじめとしたウイルス感染症の治療においては、近年、様々な課題があります。HIV治療においては、抗ウイルス薬がウイルス増殖の抑制に効果的ですが、ウイルスがHIVリザーバー細胞と呼ばれる感染細胞内に潜伏し、薬効を妨げる要因となります。HIVリザーバー細胞を活性化し、除去するlatency-reversing agent(LRA)薬剤の探索について近年研究が進んでいます。しかし、LRA薬だけでは血中ウイルス量を上昇させるため、抗ウイルス薬の併用が必須です。さらに、異なる作用機構のLRA薬を併用することにより相乗効果も期待されます。薬物投与後の、体内での代謝や組織への分布などの薬物動態は、薬効や副作用と大きく関わりますが、これら薬剤併用に関する薬物動態解析は十分に検討されておりません。
本研究は抗ウイルス薬とLRA薬剤の簡便で迅速な血中及び組織中濃度の測定法を構築し、体内薬物動態を同時に解析することを目的とします。国立国際医療研究センター(NCGM)で 複数LRA薬候補薬と抗HIV薬の体外及びマウスモデルで活性を確認した薬剤を対象とし、国立がん研究センター(NCC)における感度、特異性及び汎用性が高い質量分析技術を用いて、血中薬物濃度測定系を構築します。解析系のバリデーション実施後に薬物を実験動物へ投与し、血漿及び組織中濃度の測定し、生体内薬物動態を解析します。組織中分布をさらに解析する場合には、質量分析イメージング法で組織中への移行性を評価します。
本研究は国立がん研究センター(NCC)の薬物動態解析技術基盤と国立国際医療研究センター(NCGM)におけるウイルス治療薬の開発基盤を統合することで、新薬及び既存薬を迅速かつ正確に解析し、アカデミア創薬研究を加速することが期待されます。
研究のイメージ図
期待される効果
- 異なる作用機序の候補薬から、相乗効果が得られる複数の薬剤を選定することで、臨床で最大の治療効果を得ることが期待されます。
- 国立国際医療研究センター(NCGM)と国立がん研究センター(NCC)の連携に基づき、ウイルス感染症治療薬の薬物動態解析の拠点として、アカデミア創薬の早期段階から、薬物動態解析の面で関わり、新薬の臨床応用を加速します。
主任研究者
劉晶楽(国立がん研究センター 分子薬理分野・薬効試験部門 特任研究員)
薬剤の生体内における薬物動態は薬効と副作用と大きく関わります。薬物動態の観点から、予期された薬効を発揮できない、副作用などの事例がしばしばあります。本研究を通じて、研究開発中のウイルス治療薬を対象に、併用を想定される薬剤の薬物動態を同時評価することで、酵素、併用などの要因による薬物動態への影響の有無を早期で評価し、臨床応用に有望なアカデミア新薬の開発を推進することを期待しております。
分担研究者
【国立国際医療研究センター】
・研究所 難治性ウイルス感染症研究部
松田幸樹