Explainable AIによるがん治療由来の心毒性発症を回避する治療法候補の提案
本研究は、国内最大規模のがん治療データベースである全国院内がん登録データとDPC(包括評価制度)データにExplainable AI(説明可能な人工知能)を活用し、がん治療由来の心毒性発症を回避する治療法候補を提案することを目的としています。
がん治療法の発展は目覚ましいものがあります。しかし、がん治療、特に薬物治療の副作用として、稀ではありますが心毒性(がん治療による心臓への副作用)が生じることがあり、Cardio-oncology (循環器腫瘍学)の必要性が認識されています。また、人工知能(AI)の医療分野への活用が検討されていますが、AIモデルのブラックボックス性(解釈困難性:AIの内部でどのように情報処理がされているのか、人間には解釈が困難)により治療判断・意思決定の根拠を示すことができないことが課題となっています。そこで本研究では、近年開発が進んでいるAIモデルのブラックボックス性を軽減し解釈性を向上させるExplainable AI (説明可能なAI)を活用します。特に本研究は、AIモデルの予測結果を「発症」から「非発症」に変更できるような修正案を個人単位で導出する手法に着目します。
本研究が成功した場合、がん治療の副作用による心毒性発症を回避する治療法の仮説が提案され、その仮説検証を将来の研究に繋げることができます。また、本研究において、AIを医療分野・実臨床に応用する上で問題となるブラックボックス性を、Explainable AIにより克服する試みがうまくいけば、他の医学研究におけるAIの活用を促進すると考えています。
研究のイメージ図
期待される効果
- がん治療の副作用による心毒性発症を回避する治療法の開発に結び付く可能性があります。
- 本研究で使用する予定のExplainable AIの技術によって、AIが持つブラックボックス性の問題を克服できれば、AIの医療分野・実臨床への応用が進みます。それによって、患者さん個人にあわせた診断・治療法を大量のデータに基づいて計算し、医師に提示することで、医師と患者さんの意思決定をサポートできます。
主任研究者
尾形 宗士郎(国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部 上級研究員)
本研究は、がん治療を受ける患者さんの心臓を守りたいという思いでスタートしています。また、他の学術分野で提唱されているExplainable AIが医療分野でもうまく機能するのかを確認することも重要なテーマとしてとらえています。本研究により、がん治療による心臓への副作用を減らし、またAIの医療分野での活用が推進できればと思います。
分担研究者
【国立がん研究センター】
・がん臨床情報部 市瀬 雄一