妊婦から胎児まで心疾患合併患者の周産期医療を支える循環シミュレータの開発
妊娠・出産の周産期領域では、妊婦さんと新生児における心臓の病気の管理が新たな問題となっています。それは、医療の発達により、心臓の病気がある方も妊娠ができるようになったこと、また高齢出産の増加に伴い、生まれつき心疾患をもつ子どもの割合が増加したためです。
胎児は出生後に母親からの循環がなくなるため、劇的な循環動態の変動が生じます。心臓の病気があると循環の変化に耐えきれるかを見極める必要があります。しかし、それぞれの患者において状況が一定でないため、系統的な治療法を確立できず、これまでは熟練した医者の経験に大きく依存していました。
そこで本研究では、心臓が問題となる周産期医療を支える妊娠、胎児循環シミュレーターの開発を目指します。妊婦・胎児は放射線を使うような検査ができず、循環の状態の評価が困難です。開発する循環シミュレーターでは測定可能な血圧・超音波検査から、妊婦・胎児の全身循環をコンピュータ上に再現します。この循環シミュレーターの鍵は、心臓・血管の状態によって決まる全身の循環を、シンプルな数学的な枠組みに当てはめることです。これにより、全身の状態から心臓・血管の状態が分かり、また、妊娠・出生において心臓・血管の状態が変化した際に、全身循環の状態がどのように変化するかを予測できます。
つまり、心臓・血管の複雑な循環動態をシミュレーションすることによって"見える化"し、正確な評価が可能になります。さらには妊娠・出生の循環変化や仮想的に治療効果を事前に予測できるため、重篤な患者さんでは先制的な治療が可能となり、適切な患者管理に繋がります。
研究のイメージ図
期待される効果
- 管理が困難な心疾患合併の妊婦・胎児の循環をシミュレーションし、詳細な評価や予測を行い、適切な病態管理をサポートします。
- 今の状態や未来の状態をコンピュータで再現、予測し、個別医療の実現を目指します。
- これまでごく一部の病院でしか対応できなかった、妊娠・胎児管理が普通の産婦人科でも可能になることが期待できます。
主任研究者
西川拓也(国立循環器病研究センター 研究推進支援部 上級研究委員)
心臓が悪い妊婦・胎児の管理は、数が少なかったことから、ごく一部の病院で対応してきました。しかし、今後は心臓が悪くても妊娠が可能になる、高齢出産による影響により、心臓の悪い妊婦・胎児が増えてくることが予想されます。本研究により、リスクの高い妊娠を安全に管理し、新たな命の誕生に役立てたいと思っています。
分担研究者
【国立成育医療研究センター】
・母性内科
岡崎有香