疾患横断的な術後せん妄予測バイオマーカーの開発
本研究では、「術後せん妄」を予測するバイオマーカー(指標)を開発します。
手術の後は、一時的に体が弱った状態となり、時に「術後せん妄」と呼ばれる精神症状が出現することがあります。術後せん妄は、例えて言えば、非常に強い「寝ぼけ」のような状態です。昼夜逆転、もうろうとする、状況が分からなくなる(日時や場所がわからない)、記憶力が低下する、話していることのつじつまがあわなくなる、といった症状が出現し、時に幻覚や妄想を伴うこともあります。無意識のうちに点滴や生命維持に必要な管を抜いてしまったり、転んでしまうといった事故が起こりやすくなり、合併症が増加し、術後の回復が遅れる原因となります。またせん妄は、認知症の原因となる可能性が示されています。
しかし、せん妄がどのように生じるのかほとんど分かっておらず、従って確立した予防法がないため、新たな予防法開発が切望されています。特に近年、高齢者の外科手術が増えていますが、高齢者は術後せん妄のリスクが高いことから、術後せん妄を予防し、望ましい術後の回復を提供できるようにすることは、医療における重要な課題と考えます。
我々は、これまで免疫に着目して、血液検査でせん妄を予測する指標を開発しており(特許出願中)、本研究は開発した指標が、どの疾患の手術後のせん妄に対しても共通の指標となるか、検討することを目的としています。具体的には、国立がん研究センター・国立循環器病研究センター・国立精神・神経医療研究センターの共同研究として、がん手術・心血管疾患手術・脳外科手術を対象に、研究を行います。
どなたにせん妄が起こるか予測する指標は、1人1人に最適な予防法を開発する手段となり、せん妄予防法の確立を通じて、手術の成績を向上させ、安全安心の医療を提供する他、入院期間の短縮や、認知症予防、健全な高齢社会の維持に貢献することが期待されます。
研究のイメージ図
期待される効果
- 安全安心に手術を受けられるになる
- 手術の成績が向上する
- 早期に退院できるようになる
- 認知症を予防する
- 自律的な(身の回りのことが自分で出来る)高齢者が増える
- 社会全体の介護負担が減り、超高齢社会の維持に貢献する
主任研究者
貞廣 良一(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院精神腫瘍科 医員)
せん妄は、入院高齢者の半数に起こると考えられている、ありふれた症状ですが、ご本人・ご家族・医療者の苦痛だけでなく、身体の治療経過に影響するため、予防法の開発が複数のガイドラインでも薦められています。治療よりも、多くの方を対象とする予防では、1.安全な薬剤と、2.予防法を取り入れる対象の見分け方の両方が重要です。本研究は、2.を血液検査から実現しようとするものであり、予防法開発を大きく前に進めます。
分担研究者
【国立循環器病研究センター】
・集中治療科 加澤 昌広
【国立精神・神経医療研究センター】
・脳神経外科診療部 高山 裕太郎