認知症者における感覚刺激への心理・情動反応の評価および臨床指標との関連性の検証
この研究は、ロボットによる刺激を、認知症の方がどのように感じるのかを調べるものです。
最近、ご高齢の方に楽しんで活用してもらうことを目的としたコミュニケーションロボット(情動支援ロボット)が多く市販されるようになりました。しかし認知症の方には好ましく受け止められる場合もあれば、反対にストレスを与えてしまう場合もあることが知られています。この理由として、こうしたロボットから受ける刺激は光・音・触った感触など、さまざまな刺激の組み合わせですが、こうした外界の刺激の受け止め方が認知症の方では異なっているかもしれないことが予想されます。認知症によく見られる症状として、記憶力の低下だけでなく聴力低下や「見る力」(視覚認知機能)の低下などがあり、脳のはたらきが変化している可能性があるためです。いっぽう、認知症の方のケアが社会的な課題となっている現在、もしこうしたロボット技術を用いて不安や抑うつなどの行動・心理症状を軽減することができれば、認知症の方々の生活や介護に役立つのではないかと期待されています。
そこでこの研究では、代表的なロボットとして、ペット型およびヒューマノイド型のロボットを、認知症の方に体験していただきます。ロボットを見たとき・音を聞いたとき・触ってみたとき、のそれぞれについて、ご本人が好ましく感じるかどうか(主観的評価)をお聞きしていきます。同時に、どのような会話や表情が生まれるかを観察し、そこに含まれると思われる感情を機械で推定して分析します。これにより、どの感覚刺激が好ましく受け止められたかを明らかにします。また、認知機能や症状の程度によって、ロボットの刺激の受け止め方に差があるかどうか、検討します。
この研究が進むことにより、認知症の方の行動・心理症状を軽減できるロボット技術がどんなものかが分かり、日常のケアを支援することができると期待されます。
研究のイメージ
期待される効果
- 認知症の方にとって、どんな刺激が好ましいのかが分かります。
- 不安や抑うつなどの行動・心理症状に、ロボットの刺激が有効かどうか推測できます。
- どんな特徴を持ったロボットが、認知症の方の日常のケアに役立ちそうかが分かります。
- 将来、認知症の方により役立つロボットの開発に応用できることが期待されます。
主任研究者
大高恵莉(国立長寿医療研究センター
健康長寿支援ロボットセンター健康長寿テクノロジー応用研究室)
認知症において生活の妨げとなる症状を軽減するには、作業療法や音楽療法などのリハビリテーションが有効と言われていますが、どこでも誰にでも提供できるものとはなっていません。近年発展がめざましいロボットテクノロジーを上手に利用して、どこでも誰にでも提供できる方法があったら良いのに、という臨床現場の着想からこの研究が計画されました。私たちの研究活動が、認知症ケアのサポートにつながり、認知症の方々の穏やかな日常生活に結びつくことを願っています。
分担研究者
【国立精神・神経医療研究センター】
・病院身体リハビリテーション部
橋出秀清、水野勝広
【国立長寿医療研究センター】
・健康長寿支援ロボットセンター
加藤健治
・リハビリテーション科/健康長寿支援ロボットセンター
大沢愛子