MYOD1変換後尿由来細胞を用いたサルコペニア骨格筋細胞モデル構築と薬剤シーズ探索
研究概要
サルコペニアは、加齢に伴う進行性の筋量及び筋機能の低下で特徴づけられる病態で、患者の多くは寝たきりや車椅子での生活を余儀なくされます。疫学研究では、筋量が多いことと、歩行速度が速いことが寿命を延伸しえることを示唆しており、サルコペニア克服は社会が取り組むべき課題といえます。しかし、サルコペニアの分子病態は多くの部分が未解明であることから、本疾患に対する創薬研究は皆無に等しいのが現状です。
分子病態研究が進みにくい要因の一つとして、患者由来の骨格筋サンプルの入手困難が挙げられます。そこで、本研究では、身体に負担のかからない採尿によって得ることができる幹細胞であるヒト尿由来細胞に着目しました。NCNP神経研究所遺伝子疾患治療研究部では、本細胞に対して、筋制御因子であるMYOD1遺伝子を強制発現させることで、2週間以内にプレート上で高精度に筋管を作出可能な技術を保有しております。また、本細胞の特徴として、加齢のみで骨格筋細胞の成熟度が有意に低下することやDNAメチル化年齢が上昇すること等も既に見出しており、サルコペニアという加齢+αの病態の研究にも有用な細胞ツールの可能性が高いと考えているところです。さらに、共同研究先のNCGGでは、老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)やロコモ・フレイル・サルコペニアのレジストリ研究など高齢者疾患に対する様々な臨床研究が行われており、最近では、その高齢者コホートに登録済みの多数の健常高齢者とサルコペニア患者より血液を採取し、オミックス解析によるバイオマーカー発見を報告しました。これを踏まえると、これらコホートやレジストリ研究の参加者より尿を新たに採取することは比較的容易と考えております。
以上より、本研究の目的は、NCNPとNCGGが連携し、サルコペニア骨格筋細胞モデルを構築し、今後の創薬研究に繋がる因子を探索することです。
研究のイメージ図
期待される効果
- サルコペニア患者の尿由来細胞からサルコペニア骨格筋細胞モデルを構築できる。
- 本骨格筋細胞モデルのトランスクリプトーム解析を行うことで、サルコペニアのバイオマーカー遺伝子を同定できる。
- 上記解析結果に基づいて、サルコペニア患者の尿由来細胞より作出した骨格筋細胞で遺伝子組み換え実験を行うことで、将来的な遺伝子治療薬(siRNA医薬やmRNA医薬等)の開発に繋がるような知見を得られる可能性がある。
主任研究者
邦武克彦(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 リサーチフェロー)
サルコペニアは代表的な加齢性疾患ですが、何がどこの時点で健常な加齢との差を生むのか、実はよく分かっていないのが現状です。本研究では、ヒト尿由来細胞という非常にユニークな細胞を使います。身体の負担なく何度も採取できる細胞なので、本研究を通じて、サルコペニアのモデルに有用な細胞であることだけではなく、加齢の過程を追跡する強力なツールになることを示したいと考えています。
分担研究者
【国立長寿医療研究センター 研究所】
ジェロサイエンス研究センター 運動器疾患研究部
高石美菜子>
【国立長寿医療研究センター 研究所】
ジェロサイエンス研究センター 中枢性老化-骨格筋代謝-運動機能制御研究プロジェクトチーム
江口貴大