患者由来変異型SHARPINの機能解析によるアルツハイマー病の新規創薬標的探索
研究概要
超高齢社会である本邦において、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease:AD)に代表される認知症患者の増加は深刻な社会問題となっています。最近、ADの主要な病態である脳内に蓄積するアミロイドβ(Aβ)を標的としたAD治療薬の使用が承認されたものの、残念ながら病態の進行を遅らせはするものの認知機能を回復するまでには至っていません。これは、それらの抗Aβ医薬が蓄積したAβを除去するのみで、Aβが蓄積する原因には作用しないためと考えられます。そこで、Aβの代謝経路を標的とする医薬の開発はADの根本治療につながると期待されます。
私たちは日本人に特有のAD関連遺伝因子を探索すべく研究を進めてきました。これまでにAD患者を含む2万名を超える日本人のゲノム解析を実施し、世界に先駆けてSHARPIN遺伝子の2つのミスセンス変異(G186R、R274W)をADの新規リスク因子として同定しています。
さらに最近、G186R変異を導入したADモデル細胞ではAβ分泌量が増加するという興味深い結果を見出しました。一方、他の研究グループからは、SHARPINをノックダウンするとマクロファージのAβ貪食能が低下するという報告があり、Aβの代謝経路においてSHARPINが重要な役割を持つと考えられます。本研究では、AD患者で見つかったSHARPIN変異が疾患発症につながるメカニズム、特にAβ代謝におけるSHARPINの役割を解明し、ADの新規創薬標的の発見と目指します。そのために、SHARPIN G186R変異のノックインマウスより単離したミクログリアを用いて、変異によるAβ代謝関連経路への影響をRNA-Seq解析により明らかにします。本研究によりAβ代謝におけるSHARPINの役割が明らかになることで、より根本的なAD治療を可能とする創薬ターゲットが見つかると期待されます。
研究のイメージ図
期待される効果
- 日本人AD患者から見つかったSHARPIN G186R変異によるミクログリアのAβ貪食能への影響を調べることで、AD発症におけるAβ代謝にSHARPINがいかにして関わるかを明らかにする重要な手がかりが得られる。
- 現在、一部のAD患者に対して臨床的に使用され始めた抗Aβ抗体医薬は、脳内に蓄積したAβを直接標的とするものの、Aβが蓄積する原因には作用しない。一方、本研究で得られると期待されるAβ代謝におけるSHARPINの役割が明らかになることで、より根本的な治療を可能とするADの新規創薬ターゲットが明らかになると期待される。
- 本研究の成果を元に将来的な新薬の開発研究へ発展させることが期待できる。
主任研究者
浅海裕也(国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター 疾患ゲノム研究部、研究員)
超高齢化に伴う認知症患者の増加は、患者さんはもちろん、そのご家族や介護者への負担も大変大きいことから多くの人に関わる大きな社会問題です。私はこれまで疾患ゲノム解析によりAD等の認知症発症に関わる遺伝子変異の探索研究を進めてきましたが、そこではバイオバンクに登録された数万人規模の方々のご協力が不可欠でした。そこで得られた貴重な成果を、本研究により効果的な治療法の確立へと繋げたいと考えております。
分担研究者
【国立精神・神経医療研究センター】
精神保健研究所 精神薬理研究部
上條諭志