産褥早期からの入浴のリスクベネフィットに関する検討
研究概要
本研究は、経膣分娩をされた方を対象に退院直後から湯船につかる入浴の安全性と有効性を調べることを目的としています。
日本では経腟分娩後、産褥健診までは感染予防目的に湯船につかる入浴を控えるよう褥婦さんに指導することが一般的です。しかし、そのような入浴スタイルに会陰創部や子宮内の感染のリスクをあげるという医学的根拠はなく、あくまで慣習的な指導にすぎません。また、日本では一般的ではありませんが、諸外国では産後の会陰部痛の改善を目的とした座浴という習慣があります。座浴とは下半身もしくは腰部や臀部のみを湯や水につける方法で、会陰部や骨盤周りの血流を促進させて痛みを和らげる効果がある一方で、感染のリスクはないことが知られています。座浴の安全性を鑑みると湯船につかる入浴も同様に安全かつメリットがある可能性が高いと考えました。
出産を終えた褥婦さんは、分娩やそれに引き続く慣れない育児、急激な環境の変化が大きな身体的、精神的負担となります。さらに、会陰部痛、腰痛、肩こりといったマイナートラブルが次々に現れます。湯船につかる入浴には筋肉痛や腰痛の改善、疲労感の軽減、リラックスといった効果があることが知られており、産後に入浴を可能とすることでそのようなマイナートラブルの緩和や精神面での安定が得られる可能性もあると考えています。
本研究では産褥健診までに湯船につかる入浴を禁止した場合と湯船につかる入浴を許可した場合とで創部感染や子宮内感染の発症率、会陰創部痛や腰痛・骨盤痛の程度、産後うつスコアを比較し、安全性と有効性を検討します。
研究のイメージ図
期待される効果
- 産後の湯船につかる入浴は産後の感染リスクを上昇させないことを明らかにできる可能性があります。
- 褥婦が退院直後から湯船につかることで産褥期の様々なマイナートラブルの症状緩和につながる可能性があります。さらに、精神面での安定につながる可能性があります。
- これらのことから、将来的に分娩を終えた褥婦さんが退院直後から湯船につかる入浴が推奨されるようになる可能性があります。
主任研究者
衣斐凜子(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科 専門修練医)
女性は出産を契機に身体的、精神的、社会的な変化に急激にさらされ、多くの方が産褥期にストレスを抱えながら生活しています。日本の日常生活に根づいた習慣である湯船につかる入浴を退院直後から可能にすることでそのようなストレスの軽減につながるのではないかと考えています。私たちの研究が日本の褥婦さんの生活の質を向上させる一助となることを願っています。
分担研究者
【国立国際医療研究センター】
産婦人科
中西美紗緒