患者報告アウトカムを用いた小児神経疾患における成人移行支援の現状と関連因子の検討
研究概要
小児期発症の慢性疾患をもつ患者の90%以上が成人期を迎えるようになり、成人期医療への移行が医学的・社会的にも重要となっています。2014年には、日本小児科学会から移行医療に関する提言が発表されましたが、移行支援の体制はまだ整っておらず、特に、小児神経疾患の患者さんの場合、医療ケアの必要性や知的発達の問題があり、移行は特に難しい課題です。
この研究では、異なる特色を持ちながらも小児患者を診察する3つのナショナルセンター(国立精神神経医療研究センター病院、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター)に通院中の小児期発症神経疾患患者とその家族を対象に、移行期医療の現状や課題についてのアンケート調査を実施し、小児神経疾患を持つ患者さんの成人移行支援の現状を明らかにするとともに患者さんの満足度や健康関連の質(QOL)などを調査します。また、国立精神神経医療研究センター病院 成人診療科に通院中で、小児期から移行を経験した患者にも同様の調査を行い、比較することで移行の障壁となる要因を探り、今後の支援の改善につなげることを目指しています。過去の研究では医療者目線での研究が多いですが、本研究では患者目線での課題や現状を調査します。
研究のイメージ図
期待される効果
本研究の成果として、移行支援体制の整備に対する提案ができることが期待されています。具体的には、患者さんが移行の準備を始めるタイミングや、移行にかかる期間など、患者さんの目線から移行プロセスを明らかにすることを目指しています。この成果は、患者教育や移行支援プログラムをいつ、どのように提供すべきかの基盤となり、より実用的な成人移行支援プログラムの提案につながると考えています。
また、この研究は社会的な意義が非常に高く、患者さんや医療者からの注目度も高い課題です。研究を進め、成果を論文化することで、患者さんとそのご家族の視点から見た移行支援におけるニーズや課題を広く知らせることができます。
これらの成果により、神経疾患を持つ患者さんの移行支援体制がさらに発展することが期待されています。
主任研究者
小林揚子(国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経小児科 レジデント)
小児神経科医として、患者さんとそのご家族が自分らしく成長し、社会の中で安心して生活していけるよう支援することが私の役目だと考え、新生児から成人期まで幅広い患者さんを診察しています。しかし、日本における成人期への移行期医療の議論は海外に比べて遅れており、支援体制も十分に整っていないのが現状です。本研究を通じて、患者さんやご家族の視点から移行期医療の課題を明らかにし、誰もが安心して医療を受け続けられる支援体制の構築に貢献したいと考えています。
分担研究者
【国立精神・神経医療研究センター病院】
脳神経小児科
杉山諒
【国立成育医療研究センター】
神経内科
早川格
【国立国際医療研究センター】
小児科
堀米顕久