がん患者に対する心理療法の普及実装に向けた基盤構築
研究概要
うつや不安などの「気持ちのつらさ」は、診断直後から終末期、あるいは、治療終了後まで、がん治療のどの時期においても、多くのがん患者が経験する症状です。気持ちのつらさへの介入は、精神的苦痛の緩和のみならず、身体症状の軽減、日常生活における活動性の向上、がん治療のアドヒアランスの向上、自殺予防など、患者が抱えるさまざまな問題の改善につながることが期待されています。
がん患者の気持ちのつらさに対しては、心理療法の効果が数多く実証されており、海外の主要な治療ガイドラインにおいて心理療法は第一選択の治療法として推奨されています。一方で、実際のがん医療現場では、心理療法を提供する体制が不十分であり、必要な患者に十分な心理学的支援が届いていないという現状があります。そのため、がん医療における心理療法の普及・実装は取り組むべき最重要課題といえます。
本邦においても、がん医療における心理職の活動の実態に関する先行研究が極めて少なく、どのような状態の患者に対して、どのような心理学的介入が行われているのかという現状が明らかにされていません。また、心理療法の主たる提供者である心理職は、その養成課程において、がん医療における心理支援に関する教育を受ける機会が少なく、多くの心理職が試行錯誤しながら支援を行っています。
そこで本研究では、がん患者に対する心理療法の普及実装に向けた基盤を構築するために、以下の2つを目的とします。
- がん患者に対して実践されている心理学的介入の実態を明らかにする
- がん医療で必要とされる心理学的技法を整理する
具体的には、国立がん研究センター中央病院と国立国際医療研究センター病院において、過去3年間に心理療法士が介入した患者の診療録をもとに後方視的検討を行い、支援対象となる患者の特徴や心理学的介入の内容について整理します。これを踏まえて、フォーカスグループを行い、がん医療で必要とされる心理学的技法について包括的な検討を行います。
研究のイメージ図
期待される効果
- 本邦で未だ十分に明らかにされていないがん患者に対する心理学的支援の実態を明らかにできます。
- がん医療に携わる心理職に対して心理学的支援の指針を示すことができます。
- 心理職の質の担保、および、がん医療現場における心理学的支援の均てん化につながる可能性があります。
主任研究者
栁井優子(国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科 心理療法士)
私は公認心理師/臨床心理士として、がん患者に対する心理支援やそれに関連する研究に携わってきました。多くのがん患者が、がん罹患に伴う気持ちのつらさや心理社会的困難に直面しています。本研究を通して、多くの方が病気と闘いながらも、より良い療養や社会復帰ができるよう、心理支援の拡充に貢献していきたいと思います。
分担研究者
【国立国際医療研究センター】
心理療法室 心理療法士
新藤明絵